なぜ内科専門医研修で総合内科が大切なのか?
専門医として活躍してきた内科医の多くはやがて開業したり、市中病院で定年を迎えたりし、自分の専門以外の患者の診療もするようになります。特定機能病院などで自分の専門分野を最後までつづけていける医師は決して多くありません。つまりLifetime specialistでいられる人はごくわずかなのです。現在日本は世界を代表する高齢社会です。複数疾患を同時にもつ患者、社会的状況によりスタンダードな治療が困難な患者がさらに増えていくことが予想されます。
しかし若い時はまさか自分が将来開業したり、市中病院で専門以外もみるとはなかなか想像できません。いちにちも早く専門に入りたいと思うでしょう。ところがある程度の医師年数になってから必要に迫られて総合内科を身に着けようとするのですが、なかなかうまくいきません。勉強会も基本的には若手医師を対象としたものが多く、指導する側も経験あるベテランの医師に対しておこなうことはなかなか困難です。またGeneralistになると専門医として活躍していたときの「当科的には問題はありません」という返事ができなくなってきます。つまり若いうちに総合内科を勉強し身に着けておかなければ、後でやってくる状況に対応するのが困難になってしまうのです。
よって臓器別専門内科医を目指すにあたって総合内科としての訓練を心からおすすめします。我々は総合内科が1つの専門分野であると考えており、各科をローテーションすれば自然に身につくものではありません。総合内科医としての視点、独特のアプローチの仕方があり、それは総合内科の指導医の下でしか学ぶことが難しいのです。
それぞれの科における研修の仕方
内科専門医研修は内科症例をどの分野もまんべんなく経験しなければなりません。そこで自分が将来選ばない科に回って研修する際に心構えとして大切なことがあります。それは将来自分が専門に選ばない科で研修する際にも、「全力を尽くす」ということです。自分に必要な部分だけを効率よく研修しよう、という方法がありますが、これをやると結局それだけの気構えで研修することとなり、得られる内容は薄いものとなってしまう危険があります。たとえ自分の将来に関係がないと思われることでも、一生懸命やることによってきっと役に立つものとなります。将来必要な部分になるかならないかは、その気構えによって変わるでしょう。無駄なことは何一つないのが医学です。なぜなら医学はその種類によらず(基礎医学であろうが臨床医学であろうが)すべて「患者のアウトカムを改善する」ための学問だからです。すべては患者に通じる、ので、一見必要としないことでも勉強しておくと将来どこかであなたを助けてくれるはずです。
また、回る専門科の指導医にとっても、短期間だけ足りない症例を経験するためだけにやってきて、やる気があまりない専攻医の指導はモチベーションを高く保てないのも正直なところだと思います。
その科にいったらその科の専門医になるくらいの気合で研修することが大切です。
総合内科専門研修の魅力
総合内科学は、病歴聴取と身体診察というシンプルで、どの場面でも使用できる情報収集法を用いて、診断や問題の解明、その後のマネージメントにつなげていく学問です。
技術は新しいものに置き換わり、古いものはすたれ、身につけてもいつかはさびれていくものです。エビデンスも時代とともに変化していきます。しかし臨床の基礎である、「病歴聴取と身体診察」の技術は一生ものです。総合内科はこれをとことんまで深め、初診患者だけでなく、入院経過中のイベント、他科からのコンサルテーションなどあらゆる場面で有効に利用できるように日々努力しております。
かつて筆者はこの「病歴聴取と身体診察」を基礎として臨床推論を展開する米国の臨床医から指導をうける機会があったときに、今まで多くの血液検査、画像検査を駆使してようやくたどりついた結論に、病歴と身体所見のプレゼンテーションと質疑応答だけで、たった20分ほどで同じ結論にたどり着いてしまう実力を目の当たりにして、心に衝撃が走るとともに、いつか自分のこのような実力を身につけたい、という強い思いが心に残り、この総合内科の魅力から抜け出すことができずここまで来ております。
この魅力はお話しするだけではなかなか伝わらないため、実際に総合内科指導医と一緒に働くことが大切だと思っております。
福島県立医科大学ではそのような環境を提供できるように整備しております。
濱口杉大